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2022年06月12日

陰翳礼讃

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谷崎 潤一郎
中公文庫
476円(税込み523円)

ほとんどの日本人が普段は洋服を身につけ、街を歩けば、英字の看板が随所に存在する。そんな日本ではあるが、古くからの生活様式も残っている。多様な文化が混在するこのような生活の中で、私たちはほとんどそのことを意識せずに暮らしている。
『痴人の愛』 などで知られる、谷崎潤一郎が約七〇年前に書いたこの作品は、西洋からの影響による日本の生活に関する変化と、それにより失われつつあった日本的美意識を綴ったものである。『陰翳(いんえい)礼賛』という題名の通り、まず谷崎は陰影に焦点を当てる。現在の私たちの生活空間においては、様々な照明を用い、暗い部分を出来る限り少なくするのが一般的である。しかし、かつての日本家屋、そしてその中の生活では、照明器具の発達が十分でなかったこともあるのだろうが、意図的に陰影を作り、それを楽しむという美意識が存在したのだ。谷崎は、京都の料理屋でロウソクの灯の下、漆器に入った椀物を食す、そんな自らの様子を鮮やかに描くことで、物体そのものではなく、それが照明と相まって作り出す陰影の綾こそが美なのだと説き、そして当時すでに失われつつあった日本の美意識をせめて文学の領域には取り戻したいと語る。
西洋からの影響による日本文化の喪失を憂う谷崎であるが、同時に、不可避的に近代化する生活様式と、日本的な美意識をどのようにして融合させるかを真剣に考察してもいる。文化の喪失を嘆くだけに留まらない、前向きな姿勢に現代の私たちも学ぶべきことがあるはずだ。〈T〉
(「紫雲国語塾通信〈紫のゆかり〉2015年10月号掲載)
posted by 紫雲国語塾 at 16:30| 大分 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 紫雲の本棚から | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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